体格と性格(エルンスト・クレッチマー)

 「痩せ型の人は分裂気質、太った人には循環気質の人が多い」、と保健の時間などに習ったことがあるかも知れない。クレッチマー(クレッチメルともいう)の著作「体格と性格」の中に、それに関する記述がある。この本は60年も前の本なのに、今読んでもとても面白い。

 日々の生活で、痩せている人に気難しい人が多く、太った人に大雑把なひとが多いことを感じることは多い。クレッチマーの偉大なところは、そのことを統計的に検証し、考察を加え、概念を整理し、詳述したことだろう。

 昔の偉大な精神医学者の著作に共通することだが、彼の記述は生き生きしていて読んでいて飽きない。ふだん我々が抱くような疑問に答えながら、その奥に潜む本質へと誘ってくれる。たとえば、

 「分裂病質の諸気質を解明する鍵は多くの分裂病質者が過敏かそうでなければ冷淡かと言うのではなく、彼らは過敏で同時にしかも冷淡なのだということを理解することである。しかもその割合は全くさまざまな混合状態をないしている。」

などという記述。敏感な人が同時にとても鈍感な一面を併せ持つことに驚くことは少なくないが、クレッチマーはそれこそが分裂病室者の本質である、と指摘する。また一方で、彼は分裂気質のよさも認めている。 

 「高潔、志操の偉大さ、逆境にのぞんでの強靭さ、その人格を律する堅実で純粋で全的なスタイル、英雄的なものなどが、偉大な分裂気質の人物の生命形式である。」

 彼によれば、臨床医には循環気質の人間が向いているという。人間的な共感能力や受容能力は循環気質の方が優れているからである。ところが、データによると循環気質者の学業成績は中程度であることが多いという。彼はそこで問題提起をする。

 「我々の学校が今まで通りの教育や選抜方法を取り続けてゆくならば、将来、必然的に、競争が一層激しくなるにつれて、我々は、医師という職にとって特に豊かな才能を持つ後継者の大部分を入学試験ないしは卒業試験で失うだろう。このことは、いくら真剣に考えても、決して十分と言うことはない。」

60年前のドイツは、今の日本の状況に何とよく似ていることだろう。医学部受験が難しすぎるのはとても困ることなのだ。良医が育たなくなってしまう。

 自分はと振り返ってみると、さほど痩せているわけではないが、分裂気質に近いのだろう。しかし共感能力はあるつもりだ。だから精神科医をめざしたのだ。体質を変えることは難しいので、自分の体質的弱点をよく認識して、弱い部分を補うようにして生きてゆくしかあるまい。人と和することを、まず第一に考えてゆこう。

時のきらめき 命のかがやき

精神科医が日々の思いを綴ったものです。精神医療に限らず、広く社会や人間の本性、世界の情勢、それに対する人々の反応、など感じ考えたことを書き留めました。好きな音楽や本、絵、ドラマのことなども積極的に取り上げたいと思います。

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